【アフリカ回顧録】「サハラ砂漠を縦断した時の話」

著者名:Shunya Ohira

サハラ砂漠縦断

人が通れる場所なのか

そもそもサハラ砂漠はそんな簡単に縦断できるものなのか。それがわからない。わからないけれど、もうサハラ砂漠の目の前、モーリタニアまで来ている。世界的に有名なガイドブックであるロンリープラネット(アフリカ)を参照するが・・・モーリタニア側からのサハラ越えには触れられていない。通ろうと思う人すらほとんどいないのかもしれない。

ガラージュにて聞き込む

ここモーリタニアでは長距離移動をする際には、ふつうガラージュ(バスターミナルのようなもの)という場所からのバスや乗り合いタクシーを利用する。そこで例の如く、宿から一番近いガラージュを訪れ、そこらへんにいる人に「サハラ砂漠を越えたい」と伝えると、すぐ近くにあるタクシーに案内された。サハラ行きの交通機関は存在していた。しかも四駆でもなくバスでも無く、ふつうのタクシー。

セネガルのお友達

タクシーの中には、既に何人かの人が乗り込んでいる。どうやら私が最後の一人らしい。(※乗り合いタクシー:行き先が決まっているタクシーに一定の客が集まると、出発するシステム。)私以外に乗っていた客は4人で、全員モーリタニア人らしくない顔つきをしている。聞いてみると、セネガルから来ている知り合い同士で、モロッコで商売を始めるとのこと。一世一代のチャンスを掴みにきているらしい。やはり、砂漠を越える人々にはよっぽどの理由がある。(※ちなみに上にある写真で言うと、真ん中の上に写る人が、そのうちの一人。)

サングラスとタオル

砂漠の湿度が高い訳がない。そんなことは分かっていた。でも、あまりにカラカラし過ぎている。早朝の7時頃にガラージュを出発してから既に3時間ほどは経過していることもあり、せまい車内に詰め込まれていることもあり、顔の表情筋を使う労力を惜しんで、無表情の旅が続いている。タクシーは砂漠の中に伸びる一本道をどんどんと進んでいく。きれいとは言えないが、コンクリートで舗装された道があるだけで有り難い。・・・さらに有り難いことに、タクシーの窓が閉まらない。窓からは細かい砂が顔めがけて吹き付ける。サングラスをかけ、さらに顔の半分はタオルで覆い、なんとかその場をしのぐ事に。

スムーズなスタンプ

ドライバーとセネガルからの乗客の会話が弾まない事に気を取られているうちに、タクシーはスピードを緩める。道の脇には、巨大なトラックがどこまでも列をなしている。その数は20を越えていた。その先には砂漠に不釣り合いな巨大なゲート。きっと、ここが国境だろう。モーリタニアと西サハラの国境だ。さっきのトラックは何かの輸送業者のもので、国境を越えてモロッコに行くための手続き待ちだったに違いない。タクシーが停車すると、私たちは砂だか道路だかわからない所を歩き、モーリタニアの出国オフィスへ。出国のおじさんはいかにもアラブの富裕層の出で立ちで、愛想こそ無いもののワイロ請求なくスムーズなスタンプさばきを見せてくれた。

西サハラ国境

さて、続いては西サハラの入国審査。(※西サハラという国名だが、事実上は北に位置するモロッコが、この国を管理している。)この時点でセネガルの彼らとはすっかり意気投合し、意気揚々と進んでいく。「明日閉店します」という張り紙が貼ってあるバーを想像して欲しい。そのバーにあるカウンター。まさにそれほど歴史の深そうなものがオフィスの外に設置されている。

 

そこに無造作に置かれている入国申請用紙を一枚取り、記入する。・・・記入しようとしたら、側にいた少年にもの凄く怒られた。彼がこのバー(バーではない)みたいな場所を取り仕切っているらしい。見た目はかなり若く、多めに見積もっても高校生くらいだ。彼は私の紙を奪い取ると、色々と質問をしてくる。名前、国籍、パスポートナンバー・・・。彼が私の代わりに用紙に記入しているのだ。絶対、自分で書いた方が速い。しかも私の名前のスペルが間違っている。海外でSHUNYAをまともに理解してくれる人はほとんどいない。

大繁盛のバー

紙の記入が終ると、次に身体検査に向かう。この間にも先ほどの「閉店直前のバー」には人だかりが出来ている。そこにいる人の表情は険しく、我先にと周りの人を押しのけては、先ほどの少年に向かって手を伸ばしている。その手には、お札が握られている。そいうことか。少しの「お小遣い」をその少年に払うことで、優先的に記入してくれるのか。私はラッキーだった、先にどれだけの人が並んでいたかも気にしないで、しかも勝手に用紙を取って書こうとまでしていた。まあ、ササッと通過することができて、ラッキーではないか。次の身体検査は、バックパックの中身を見せる程度で終了だった。

ワイロ

身体検査を終えて、セネガルのお友達を待つが、いつまでたっても姿を現さない。実際に検査が行われている場所は壁の裏側で、見ようと思えば見ることができる。・・・そして、そこで目撃してしまった。友人がワイロを要求されている光景を。

 

身体検査をする人は見た目で言えば、軍人だ。腰からは銃を下げている。友人は、最終的には日本円で2000円ほどの現金を支払わされていた。かなり粘っていたが、どうやら彼の負けらしい。身体検査を終えて生還した彼の絶望に満ちた表情は今でも忘れない。「20ドルも・・・」というように、言葉を詰まらせていた。彼の請求された金額ほどではなかったが、他の3名もかなりの額を持っていかれたと話してくれた。

気まずい空気

全ての行程は終った。少なくとも国境を渡る人に関しては。問題は車にあった。先ほどのタクシーだ。国境を越える際に、車体も特別な検査を受けなくてはならない。検査を受けるために順番を待つ訳だが、あまりにも膨大な数の車両が先に並んでいる。最初に目にした巨大トラックもそこに含まれているのだろう。

 

仕方がないので、私たち5人は待つ事に。びっくりするほどに日陰がない。これまた仕方が無いので路上に座り込む5人。身体検査を終えてからのセネガルの人々の元気の無さといったら、魂を吸い取られたかのようだ。その中で、楽しい会話が生まれる訳も無く、時間だけが過ぎていく。太陽は皮膚を燃やし続ける。

オフィスに入る

そこから1時間、2時間と時が経過していく。しらないうちに「車はまだなのかなー」と呟くことが癖になっていた。やはり、こういう時には日本語が出てくるものだ。これを隣で言われ続けたセネガルの人々も、もう全く反応すらしていない。「車はまだなのかなー」というフレーズに次第にリズムが加わって来た頃、ひとりの男が話しかけて来た。見るからに、その男はここで働く役人だ。制服を来ている。

 

その男は私が日本人であること知ると、オフィスについて来いと言う。しかたなくついて行くと、そこは天国であった。まず、室内という時点で、日陰。さらに信じられないことに、エアコンが快調に作動している。ついに私がワイロを要求される番かと思ったその時、男が言った。「オレンジジュース飲む?」満面の笑みで。

自分だけ飲んでいいのか

は?としか言えない。人は、あまりにも予想外な出来事が起こると、思考がストップする。しばらく考えた後に、その男の顔を見ると、まだ満面の笑みを維持している。すごい表情筋を持っているに違いない。訳も分からず、頂くと、息が止まるくらいに喉が過剰に反応する。キンキンのオレンジジュースが胃袋に到達したのを感じる。この瞬間のためにサハラ砂漠は存在しているのではないかとすら思った。・・・次に思うのは、外で今も地面に座り待ち続けている4人。「彼らの分も、もらわなくては」と慌てて気づき、お願いをするが返って来た答えが「あいつらは大丈夫だ。気にしなくて良い。」という、なんとも人間味のないもの。

日本人ということ

「なぜ、自分には、くれたのか」と尋ねると、理由は単純。日本人だから。彼は日本が好きで、車の質が高いとか、安全な国だとか、やたらと嬉しそうに話す。もちろん、褒めてもらえるのは有り難いことだ。しかし、何か腑に落ちない。私と、外にいる4人、どちらにオレンジジュースをあげるかは、全員と話した後に決めてもいいのではないか。それなのに、セネガルから来た彼らとは会話をしようとすらしない。いくら一生懸命、それを訴えても、役人の男には届かなかった。説得することも出来ない無力感と、セネガルの彼らを差し置いてジュースを飲んでしまった自分への罪悪感。そのまま、タクシーの準備が整い、皆で乗り込む。友人の一人が私に尋ねる。「オフィスの中で何を言われたのか。大丈夫だったのか?」その問いに対して、ただ「あぁ、大丈夫」という素っ気ない返事を返すことしか出来なかった。

あの時の約1ドル

後でわかったことだが、友人のうちの一人が、西サハラの入国の際に、用紙を記入する少年にお金を払っていた。なんと、私の分のお金を払ってくれていたのだ。後で、ドライバーに言われて知り、その時に返そうとしても、友人は決して受け取ろうとしなかった。色々と申し訳ない気持ちでいっぱいになる。・・・最近、なぜアフリカで起業を?という質問をよくされる。一番単純に言えば、このような出来事に対するお礼をするということ。その人に直接お礼ができるかは、わからないけど、少なくともその地域に住む人に何かを還元できる形で商売をしたい。色んな地域を旅する中で、「お礼をしなければならない」という思いがどんどん膨らみ、それに報いる形で商売をする、というのが私の行動パターンとなっています。

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